KRBCでは釣り用のニジマスは某所より購入しています。
しかし…高いんですよね(^^;
そこで、来年秋以降のコスト削減と安定供給を目指し、ニジマスをKRBC内で養殖することにしました!
発眼卵や稚魚の購入も考えたのですが、いっそのこと採卵から行おうと決め、10月から準備に入りました。その方が楽しいですし、経験値獲得の意味でも、有意義だと思いますしね(^_^)
基礎知識の習得
先ず行ったのは、基礎知識の習得です。
ニジマス養殖のバイブルと言われる昭和46年に書かれた「ニジマス ー冷水を有利に生かすー 原田雄四郎 牛山宗弘 共著」に極々基礎的なことが書かれていますので、それを読みます。ただ、残念なことに採卵についての記載がほとんど無いのです(^^;
そこで群馬県水産試験場川場養魚センターを訪ね、センター長さんに参考になる本や論文などを聞きに行きました。
が、技術そのものは「ニジマス ー冷水~」の本が書かれた頃と、ほとんど変わっていないとのこと(^^;
また、群馬県で採卵等の養殖技術を学ぶセミナーが行われているとのことでしたが、本年度の申し込みがほんの数週間前に終了してしまっていることなどがわかりました(^^;
しかし参考になることも多く聞けたので、そのほかの実践的なことはネットに上がっている動画や文献を調べて、おおよその感覚を掴むことができました。
道具の準備
次に行ったのは道具の準備です。
先ずは採卵後に卵を生育させるためのふ化槽の作成です。ニジマスをそれなりの規模で養殖するには「たて型ふ化槽」や「アトキンス式ふ化槽」などが知られています。
当初は養殖池にこれらに準じたふ化槽を作成して沈めようと考えていたのですが、木枠の作成費用などそれなりの金額が掛かることがわかりました。それに今年は失敗前提の試験的な採卵ですし…。
そこでふと思い出したのが「KRBCは湧水が蛇口から出る!」ということです。そもそも卵の育成に必要な水量は10万粒あたり10 L/min程度あれば十分であるということもありまして…。
プラスチックコンテナを利用することを思いつきました。これなら安いですし、フタを閉めれば遮光もできますしね。コメリで2,450円で購入してきました(笑)
このコンテナに穴をいくつか開けたホースをキスゴムで固定します。
水量はどこまでひねればどのくらいの水量になるかを測定してマークしました。6と10はそれぞれその位置まで回すと6 L/min、10 L/minの水量が蛇口から供給されます。
次に用意したのはふ化盆です。これも専用のものを買うと結構なお値段がするので…。何か代わりになるものが無いかとホームセンターをウロウロして見つけたのが、植物の種苗用のトレーです。なんてったって安い!一枚140円!
底面の穴のサイズも量もちょうど良いですし、深さも絶妙です。横の穴が少し大きいので、そこは三角コーナーネットを切ってボンドで付けました。
トレーがプラで縁に空気が残る構造なので、浮いて安定しないという問題は生じましたが、一番上に重りを入れたトレーを置くことで解決しました。
水は流しっぱなし(湧水なので無料です(笑))で、コンテナの縁からたらたら流れ落ちます。満杯にするとコンテナが水重で膨らみ、変形して壊れそうだったので、膨らんだところは持っていた船のアンカーで抑えました。来年はコンテナを2重にするなどの工夫が必要かもしれません。
次に準備したのは採卵と受精に必要な道具です。
卵や精子を絞るときに、マスを麻酔しなければなりません。いろいろと論文を読むと、炭酸水素ナトリウムで麻酔が掛かるとのことでしたので、これを使用することを考えました。炭酸水素ナトリウムは既に手元にありましたので。
この件を川場養魚センター長さんに相談すると、市販されている「FA100を使うこと」とお教えいただいたので、そこはコスト削減を諦め、購入しました。
濃度はいくつかの論文を読むと、5000倍希釈が良さそうでしたので、水10 Lに対してFA100を2 mL入れて麻酔します。10 L入れる麻酔用の桶もコメリで購入しました。
そして採卵・採精時に魚を固定する道具と検卵に使用する投光器。これらもネットで探すと結構お高い…。で、今度はダイソーで何か使えないかブラブラ探していると…。
見つけました!本立てとちょっとした木材、プラケースとLEDライトを!
魚の固定具は材料費300円で以下のように作成。
検卵用投光器も以下のように300円で組み合わせ。
これで準備は整いました。
採卵と採精
そしていよいよ採卵と採精です。
先ずは卵を絞ることができるメスを確保しなければなりません。文献などを読むと、採卵できるメスは3年魚以降とのこと。幸いこのような種親はKRBCに何匹かいたので、使えそうです。
ただ、卵を持っていれば良いということではなく、おなかを絞って卵が出るメスを使わなくてはなりません。ネットや文献ではその見分け方を「おなかがポチャポチャしている」など、非常にあやふやな表現で示しているものが多く、最初は手探りでした。
そして10月最終週の土日から数週間絞っては出ずを繰り返し、11月24日、ついに採卵ができました!
そこで分かったのが、採卵できるメスは下腹部、つまり腹びれから尻びれにかけての部分が膨らんでいること。
これは論文で読んだ卵の体内動態からももっともな表現形だなと思いました。
採卵ができる状態の前のメスのおなかの中では、卵巣で卵が成熟していきます。つまり「筋子」の状態です。そして成熟して受精できる状態になると卵が卵巣後端から放出され、腹の中にいわゆる「イクラ」の状態で散らばるとのこと。
そのため、採卵できる前はこの腹びれから尻びれにかけての膨らみが見られないのですが、ここが膨らんでいるということは、卵が卵巣から体内に放出されたという証拠なのでは、と勝手に思っています。
(採卵初年度の少ない経験で偉そうに言うのもなんですが(^^;)
このようなメスを固定して、腹びれから下腹部(内臓を傷めないよう、できる限り腹びれから尻尾側)を絞って採卵します。最初はびびって力を入れられませんでしたが、それなりに強めに絞ると、卵が卵管から飛び出してきます。
そしてこのように黄金色の綺麗な卵を得ることができました!
採卵や採精時にもっとも気を付けなければならないことは、水(河川水などの塩濃度の低い水)と接触させないこと。水と接触すると卵が急激に吸水し、受精能がなくなるとのこと。精子も運動が始まってしまい、こうなると受精できる状態は1分も持たないようです。
写真は水に浸かっているように見えますが、メス親の腹水なので、これはOKです。このため、採卵や採精時には種親をタオルで包み、よく水気を除かなければなりません。
そして次の壁は「受精可能な卵かどうか」という点です。
マス類の卵はメスの体内に放出された後、日を追って熟していきます。体内に放出されると、5日~2週間後には受精できない「過熟」様態になってしまうのです。
卵が受精できるのは「卵の全体が黄金色で、卵内に油滴がほとんど観られない状態」の時に限られます。過熟していくと、卵内に油滴が散らばって見え始め、最終的には一か所に集まりいわゆる市販の「イクラ」のような目玉おやじの様相を示します。
産卵されないと、その後卵殻が柔らかくなり、体内に吸収されていくそうです。
これを観察するための検卵器なわけです。
過熟した卵は以下のような形態です。ちなみに過熟の過程は同一個体内であっても卵によって違うようで、過熟が進んでいるものからそれほどでもないものまで、バラツキが観られます。
(2匹からこのような卵が採れました。もっと早く捕まえて採卵しておけば…。)
一方でオスの採精可否はよくわかりません(^^;
外観上は婚姻色が出て、いかにも「マスのオス!」のような形態をしていれば、たいてい腹を絞ると採精できるように感じます。
メスもそうですが、性成熟したものはエラ蓋が赤くなる感じですね。以下は性成熟したメスで、顔は丸いままです。
採卵後は1 %食塩水で卵を洗い、精子を加えて撹拌し、3分ほど放置した後、水を加えて吸水させます。ちなみに過熟した卵は吸水するとあっという間に白くなります。
精子の動きは腹水などのカリウム濃度が高い状態では抑制されてしまうようなので、低カリウム濃度の食塩水で腹水を置換して受精させるのが良いようです。
そして受精後、ふ化槽に移しました。
卵の管理
卵は紫外線に弱いとのことで、遮光した状態で管理し、目が見える(発眼)までふ化槽内で静置します。
一般的にニジマスでは発眼するころになると卵が外からの刺激や衝撃からも強くなるので、発眼までが卵の育成の一区切りとなります。
発眼にまでに要する日数は水温に左右され、川場では積算温度が168 ℃程度で発眼が観られるとのことでした。積算温度は一日の平均水温と日数で計算されます。
KRBCの湧水は10~11 ℃なので、おおよそ16日程度で発眼が観られると考えられました。実際に2週間後(14日後)でははっきりと発眼は観察できませんでした。
ちなみに受精直後の死卵は以下の写真のように2日後には白くなってわかります。ただ、川場養魚センター長さんによると、受精卵か未受精卵かは発眼するまでわかりにくい、とのこと(^^;
それまではうまくいっているのかどうか不安が続きます。
そして3週間後、発眼がはっきりと確認できました!
この状態がわかると、16日後にはうっすらと発眼していることも分かるようになりました。
この発眼が観られて卵が丈夫になったころに、死卵の除去を行います。ただ、このころになると水カビが相当に出てきていて、正常卵にも巻き付いてきています。大丈夫なのでしょうか?(^^;
この状態を見ると、自然下ではどうなっているのでしょうか?結構な割合で水カビに侵されて死んでいってしまう卵が多いように思いますけれど…。
発眼後1週間もすると未授精だった卵にも水カビが生えるようになってくるようで、こまめに死卵を取り除く必要があるようです。
そして最初の採卵から4週間後(28日後)、1匹ふ化が観られました!
(ただ単に卵殻が破れて頭が出てしまったのかも…しれませんけれど(^^;)
さて、今後の様子は別の記事(稚魚の成長編)で書きたいと思います。
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